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なぜ、歌うのか

ヨハン・ゼバスティアン・バッハが作曲したロ短調ミサ曲の4曲目Gloria in excelsisの冒頭、オーケストラが奏でる音楽を耳にするとなぜかいつも心が震えます。
私にとって音楽は私を感じるかけがえのない時間です。
ここでは初めてリサイタルを開催した時に掲載した文章を紹介いたします。

REASON

「リサイタルへ寄せて」

皆さま、本日はリサイタルへお越しくださり、誠にありがとうございます。 私が初めてバロック音楽に触れたのが、Claudio Monteverdiが作曲した《Io mi son giovinetta》のCDでしたが、その時の衝動は今でも鮮明に記憶しております。言葉で表現するのは大変難しいのですが、悲哀や郷愁が懐かしくもあり、また寂しさのようなものを感じたりと様々な感情が大きく揺さぶられたことを思い出します。

本日演奏いたします曲について私が惹かれる部分も、まさにその感情のうねりのようなところにあります。 ラモーの《テティス》は、神々のキャラクターと音形がマッチしている所が大変面白く、海神ネプチューンが荒れ狂う様は海が天を突き抜けてしまいそうな嵐を想起させ、雷神ジュピターの怒りはまさに天変地異を予感させます。人智を超えた神々の姿とは対照的に、女神に恋し盲目になってしまう部分に人間以上に人間らしさを感じ親近感を抱きます。 ヘンデルのカンタータ《私を蔑むかのように》では、人を愛することへの尊厳やその愛が成就しなかった時の絶望、嘆き、苦悩する様を地球規模で表現しており、当時の人びとの感覚の振り幅が広く、とても豊かなものだったことが窺えます。またこうした感情の描写を、器楽と歌手が一体となり演奏される様に魅力を感じます。

今回リサイタルでバロック音楽を取り上げた背景には、私が深く感動した、また大いに支えてくれた音楽を大切な方々にいつかお届けしたいという気持ちをずっと持ち続けていたからでした。ようやく皆さまへお届けできる本日を迎えるまで、多くの方々のあたたかいご支援を賜り、またこのような時世の中、お越しくださいましたことへ心より御礼申し上げます。

本日は皆さまに愉しんで頂けますよう、精一杯歌います。

望月 忠親